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京都地方裁判所 昭和37年(ワ)484号 判決 1963年6月04日

判   決

京都市左京区岡崎天王町四五番地明石庄三方

原告

内藤博光

右訴訟代理人弁護士

上田信雄

京都市中京区小川通姉小路下ル四九六番地

被告

桑原弘

主文

被告は原告に対し京都市中京区小川通姉小路下ル西堂町四九六番地上家屋番号同町二四番木造瓦葺二階建居宅建坪二七坪四合(本件家屋)を明渡せ。

訴訟費用は被告の負担とする。

本判決は金五〇、〇〇〇円の担保を供するときは仮りに執行できる。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決と仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

「(一) 原告は本件家屋の所有者である。

(二) 被告は本件家屋を占有している。

(三)(1) 原告は訴外浅野トミに本件家屋を賃貸していたが、同訴外人は昭和三七年一二月一一日死亡した。

(2) 同訴外人には直系卑属、直系尊属、配偶者、兄弟姉妹およびその直系卑属が不存在であり、清算手続を要する相続財産も存在しない。

(3) したがつて、原告同訴外人間の本件家屋賃貸借契約は同訴外人の死亡により消滅した。

(四) よつて、原告は被告に対し本件家屋の明渡を求める。」と述べ、

被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

「(一) 原告主張の(一)、(二)、(三)の(1)および(2)の事実は認める。

(二) 被告は、訴外浅野トミの事実上の養子として本件家屋に同訴外人と同居していたものであるので、同訴外人の死亡により、原告・同訴外人間の本件家屋賃借関係を承継したものである。」

と述べた。

理由

原告主張の(一)。(二)、(三)の(1)および(2)の事実は被告の認めるところである。

被告は、賃借人の事実上の養子として賃借人の死亡により賃貸借を承継したと主張するけれども、事実上の養子に賃貸借の当然承継を認めえない。

もつとも、家屋賃借人の事実上の養子として待遇されていた者が賃借人の死後も引き続き家屋に居住する場合、賃借人の相続人らにおいてその者を遺産の事実上承継者と認める等の事情があるときは、その者は、家屋の居住につき、相続人らの賃借権を援用して賃貸人に対抗することができる(昭和三七年一二月二五日最高裁判所第三小法廷判決参照)。

しかし、本件のように、家屋賃借人に相続人が不存在であり、清算手続を要する相続財産も存在しない場合、家屋賃貸借は賃借人の死亡により消滅するものと解するのを相当とする。

したがつて、被告の援用しうる賃借権は存在しないから、被告主張の抗弁は採用できない。

よつて、原告の本訴請求は正当としてこれを認容し、民事訴訟法第八九条第一九六条を適用し主文のとおり判決する。

京都地方裁判所

裁判官 小 西   勝

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